等差平方数列と楕円曲線の有理点群

等差平方数列と楕円曲線の有理点群
目次

はじめに: 5 を足しても引いても平方数になる平方数

\(1225\) 年ごろ,神聖ローマ皇帝フリードリヒ2世の宮廷では,学者たちによる数学や自然哲学の議論が盛んに行われていました.

フィボナッチの名で知られるレオナルド・ピサノもその場に招かれ,宮廷数学者ジョバンニ・ダ・パレルモからいくつかの数学の問題を提示されました.

その際に提示された問題のひとつが,後にフィボナッチ自身によって『平方の書』(Liber Quadratorum)に記されています.

\(5\) を加えても減じても有理平方数になるような有理平方数を求めよ.

現代的に書けば,次を満たす有理数 \(x\) を求める問題です:

\[
x^2−u^2=v^2-x^2=5
\]

フィボナッチが与えた解は

\[
x=\frac{41}{12}
\]

​​です.実際,

\[\begin{align}
\left(\frac{41}{12}\right)^2-5&=\left(\frac{31}{12}\right)^2 \\ \left(\frac{41}{12}\right)^2+5&=\left(\frac{49}{12}\right)^2
\end{align}\]

が成立します.

しかし,これはジョバンニ問題の唯一の解ではありません.

本記事では,フィボナッチ解の導出から楕円曲線上の加法による新しい解の生成までを説明します.

ピタゴラス数から等差平方数列を構成する方法

ジョバンニ問題は,ある関係を満たす \(3\) つの平方数についての問題です.そこで自然に思い浮かぶのが,ピタゴラス数との関係です.

ピタゴラス数とは,

\[
a^2+b^2=c^2
\]

を満たす数の組 \((a,b,c)\) のことです.有理数 \(p,q,(p>q>0)\) に対して,

\[
a=p^2-q^2,\qquad
b=2pq,\qquad
c=p^2+q^2
\]

と置くと,\((a,b,c)\) はピタゴラスの関係を満たします.

一方,問題条件を一般の公差 \(n\) に対して

\[
x^2-u^2=v^2-x^2=n
\]

と書くと,等差中項の式

\[
u^2+v^2=2x^2
\]

が成り立ちます.

ここで,実数における 平行四辺形恒等式

\[
(u+v)^2+(v-u)^2=2(u^2+v^2)
\]

を用いると,

\[
(u+v)^2+(v-u)^2=(2x)^2
\]

となります.したがって,

\[
a=u+v,\qquad
b=v-u,\qquad
c=2x
\]

と置けば,

\[
a^2+b^2=c^2
\]

となります.

逆に解いて

\[
u=\frac{a-b}{2},\qquad
v=\frac{a+b}{2},\qquad
x=\frac{c}{2}
\]

と置けば,

\[
u=\frac{p^2-q^2-2pq}{2},
\]

\[
v=\frac{p^2-q^2+2pq}{2},
\]

\[
x=\frac{p^2+q^2}{2}
\]

が得られます.

したがって,

\[
\boxed{
\left(\frac{p^2-q^2-2pq}{2}\right)^2,
\quad
\left(\frac{p^2+q^2}{2}\right)^2,
\quad
\left(\frac{p^2-q^2+2pq}{2}\right)^2
}
\]

は等差平方数列になります.

公差は

\[
n=\frac{v^2-u^2}{2}
\]

ですから,

\[
v^2-u^2=(u+v)(v-u)=ab
\]

より

\[
n=\frac{ab}{2}
\]

となります.さらに \(a,b\) の媒介表示を代入すると,

\[
n=\frac{(p^2-q^2)\cdot 2pq}{2}=(p^2-q^2)pq
\]

を得ます.

したがって,この方法で構成される等差平方数列の公差は,

\[
\boxed{
n=(p^2-q^2)pq
}
\]

です.

フィボナッチ解の導出

ジョバンニ問題では,公差が \(5\) である等差平方数列を求めます.

ここでは,まず \(p,q\) を自然数として等差平方数列を構成し,その全体を適切な自然数 \(N\) で割ることを考えます.

もとの数を

\[\begin{align}
u, &&x, &&v
\end{align}\]

とすると,それらを \(N\) で割って得られる \(3\) つの平方数は,

\[\begin{align}
\left(\frac{u}{N}\right)^2, &&\left(\frac{x}{N}\right)^2, &&\left(\frac{v}{N}\right)^2
\end{align}\]

です.

もとの等差平方数列の公差が \(n\) ならば,

\[
\left(\frac{x}{N}\right)^2-\left(\frac{u}{N}\right)^2=\frac{n}{N^2}
\]

なので,新しい公差は

\[
\frac{n}{N^2}
\]

となります.

先ほどの構成では,

\[
n=(p^2-q^2)pq
\]

でしたので,割った後の公差を \(5\) にするには,

\[
\frac{(p^2-q^2)pq}{N^2}=5
\]

すなわち,

\[
\boxed{
(p^2-q^2)pq=5N^2
}
\]

を満たす自然数 \(p,q,N\) を見つければ良いことになります.

そこで,左辺に因子 \(5\) を持たせるため,試みに

\[
p=5
\]

と置いてみます.すると,

\[
q(25-q^2)=N^2
\]

となり,

\[
q(25-q^2)
\]

が平方数になるような整数 \(q\) を探せば良いことが分かります.

\(0<q<p=5\) より,

\[
q=1,2,3,4
\]

を調べると,\(q=4\) のとき,

\[
q(25-q^2)=36=6^2
\]

となります.

したがって,

\[\begin{align}
p=5, &&q=4, &&N=6
\end{align}\]

が求める条件を満たします.

まず,\(p=5,q=4\) から構成される数を求めると,

\[
u=\frac{p^2-q^2-2pq}{2}=\frac{25-16-40}{2}=-\frac{31}{2}
\]

\[
v=\frac{p^2-q^2+2pq}{2}=\frac{25-16+40}{2}=\frac{49}{2}
\]

\[
x=\frac{p^2+q^2}{2}=\frac{25+16}{2}=\frac{41}{2}
\]

となります.

これらを \(N=6\) で割れば,公差 \(5\) の等差平方数列

\[\begin{align}
\frac{u}{N}=-\frac{31}{12},&& \frac{x}{N}=\frac{41}{12},&& \frac{v}{N}=\frac{49}{12}
\end{align}\]

が得られます.

問題に現れるのは \(u^2\) なので,\(u\) の符号は結果に影響しません.よって,求める等差平方数列は

\[
\boxed{
\left(\frac{31}{12}\right)^2,\quad
\left(\frac{41}{12}\right)^2,\quad
\left(\frac{49}{12}\right)^2
}
\]

です.


ところで,公差の式

\[
n=\frac{ab}{2}
\]

は,辺の長さが \(a,b,c\) である直角三角形の面積そのものです.

\(p=5,q=4\) に対応するピタゴラス数は,

\[
a=p^2-q^2=9,
\]

\[
b=2pq=40,
\]

\[
c=p^2+q^2=41
\]

です.

これらを \(N=6\) で割ると,

\[\begin{align}
a=\frac{3}{2}, &&b=\frac{20}{3}, &&c=\frac{41}{6}
\end{align}\]

となります.

この有理直角三角形の面積は,

\[
\frac{ab}{2}=\frac{1}{2}\cdot\frac{3}{2}\cdot\frac{20}{3}=5
\]

です.

したがってジョバンニ問題は,

面積 \(5\) の有理直角三角形を求める問題

とみなすこともできます.

この観点から,問題は楕円曲線と深く結びつくことになります.

楕円曲線との関係

前節では,ジョバンニ問題から,面積が \(5\) である有理直角三角形

\[\begin{align}
a=\frac{3}{2}, &&b=\frac{20}{3}, &&c=\frac{41}{6}
\end{align}\]

が得られました.

ここでは公差を再び一般の正の有理数 \(n\) とし,

\[\begin{align}
a^2+b^2=c^2, && \frac{ab}{2}=n
\end{align}\]

を満たす有理直角三角形を考えます.

ピタゴラス数の媒介表示

ピタゴラス数の媒介表示

\[\begin{align}
p^2-q^2,&& 2pq,&& p^2+q^2
\end{align}\]

は,全体を同じ数で割ってもピタゴラスの関係を保ちます.

そこで,\(2\) つの有理数 \(X,Y\) を用いて,

\[
\boxed{
a=\frac{X^2-n^2}{Y},\quad
b=\frac{2nX}{Y},\quad
c=\frac{X^2+n^2}{Y}
}
\]

と置いてみます.

これは,ピタゴラス数の媒介表示において,\(2\) つの媒介変数を \(X,n\) とし,全体を \(Y\) で割った形です.

ゆえに \(a,b,c\) はピタゴラスの関係を満たし,有理直角三角形の \(3\) 辺になります.

面積条件から楕円曲線を導く

ここまでは,\(a,b,c\) が直角三角形をなすという条件だけを用いました.さらに,その面積が \(n\) であるという条件

\[
\frac{ab}{2}=n
\]

を課します.

媒介表示を代入すると,

\[
\frac{ab}{2}=\frac{1}{2}\frac{X^2-n^2}{Y}\frac{2nX}{Y}=\frac{n(X^3-n^2X)}{Y^2}
\]

となります.

これが \(n\) に等しいので,

\[
\frac{n(X^3-n^2X)}{Y^2}=n
\]

です.\(n>0\) より,両辺を \(n\) で割って整理すると

\[
\boxed{
Y^2=X^3-n^2X
}
\]

を得ます.

これは,ワイエルシュトラス標準形で表された楕円曲線です.

したがって,面積が \(n\) である有理直角三角形を求める問題は,楕円曲線

\[
Y^2=X^3-n^2X
\]

上の \(Y\ne 0\) である有理点 \((X,Y)\) を求める問題に置き換えられます.

ここでは楕円曲線の式を外から与えたのではありません.ピタゴラス数の媒介表示に面積条件を課すことで,楕円曲線が自然に現れています.

直角三角形から楕円曲線への逆変換

ここまで,楕円曲線上の有理点 \(X,Y\) から,有理直角三角形を,

\[\begin{align}
a=\frac{X^2-n^2}{Y}, &&b=\frac{2nX}{Y}, &&c=\frac{X^2+n^2}{Y}
\end{align}\]

によって構成しました.

次に,この関係を逆に解き,与えられた有理直角三角形 \((a,b,c)\) から \(X,Y\) を求めます.

\(a\) と \(c\) の式を加えると,

\[
a+c=\frac{2X^2}{Y}
\]

となります.

一方,

\[
b=\frac{2nX}{Y}
\]

なので,両者の比をとると,

\[
\frac{a+c}{b}=\frac{X}{n}
\]

です.

したがって,

\[
\boxed{
X=\frac{n(a+c)}{b}
}
\]

が得られます.

さらに,

\[
b=\frac{2nX}{Y}
\]

を \(Y\) について解くと,

\[
Y=\frac{2nX}{b}
\]

です.

ここに先ほど求めた \(X\) を代入すると,

\[
\boxed{
Y=\frac{2n^2(a+c)}{b^2}
}
\]

を得ます.

したがって,\(2\) つの変換は,

\[
\boxed{
a=\frac{X^2-n^2}{Y},\\
b=\frac{2nX}{Y},\\
c=\frac{X^2+n^2}{Y}
}
\]

および,

\[
\boxed{
X=\frac{n(a+c)}{b},\\
Y=\frac{2n^2(a+c)}{b^2}
}
\]

として互いに対応しています.

フィボナッチ解に対応する有理点

フィボナッチ解から得られた有理直角三角形は,

\[\begin{align}
a=\frac{3}{2}, &&b=\frac{20}{3}, &&c=\frac{41}{6}
\end{align}\]

であり,その面積は \(5\) でした.

したがって,対応する楕円曲線は

\[
Y^2=X^3-25X
\]

です.

変換式に \(n=5\) を代入すると,

\[
X=\frac{5(3/2+41/6)}{20/3}=\frac{25}{4},
\]

\[
Y=\frac{2\cdot 5^2(3/2+41/6)}{(20/3)^2}=\frac{75}{8},
\]

となります.

したがって,フィボナッチ解に対応する楕円曲線上の有理点は,

\[
\boxed{
P=\left(\frac{25}{4},\frac{75}{8}\right)
}
\]

です.実際,

\[
\left(\frac{75}{8}\right)^2=\frac{5625}{64}
\]

であり,

\[
\left(\frac{25}{4}\right)^3-25\left(\frac{25}{4}\right)=\frac{5625}{64}
\]

なので,確かに \(P\) は,

\[
Y^2=X^3-25X
\]

上にあります.

フィボナッチ解は,このように楕円曲線上の \(1\) つの有理点として表されます.

楕円曲線を用いる利点は,既知の有理点から加法によって別の有理点を作れることにあります.

楕円曲線上の加法による新しい解の生成

楕円曲線

\[
Y^2=X^3-n^2X
\]

上の有理点には,加法と呼ばれる演算を定義できます.

楕円曲線に無限遠点 \(\mathcal{O}\) を \(1\) つ加え,これを加法の単位元とします.また,点

\[
P=(X,Y)
\]

の逆元は,\(X\) 軸について反転した点

\[
-P=(X,-Y)
\]

です.この加法について,楕円曲線上の有理点全体は可換群をなします。この群を楕円曲線の有理点群といい、

\[
E(\mathbb{Q})
\]

と表します.モーデル-ヴェイユの定理によれば,\(E(\mathbb{Q})\) は有限生成アーベル群になります.

楕円曲線上の \(2\) 点 \(P,Q\) を通る直線を引くと,その直線は一般に楕円曲線ともう \(1\) 点で交わります.その交点を \(X\) 軸について反転した点を,\(P+Q\) と定義します.

特に,\(P=Q\) の場合には,点 \(P\) における接線を用います.この演算を点の倍加といい,得られる点を

\[
2P=P+P
\]

と書きます.

この幾何学的な演算は代数的に計算でき,有理点どうしを加えると再び有理点が得られます.

2 点を加える公式

異なる \(2\) 点

\[\begin{align}
P_1=(X_1,Y_1), &&P_2=(X_2,Y_2)
\end{align}\]

を考えます.

これらを通る直線の傾きを,

\[
m=\frac{Y_2-Y_1}{X_2-X_1}
\]

とすると,楕円曲線との第 \(3\) の交点の \(X\) 座標は,解と係数の関係から求められます.その交点を \(X\) 軸について反転することで,

\[
X_3=m^2-X_1-X_2
\]

\[
Y_3=m(X_1-X_3)-Y_1
\]

を得ます.

一方,同じ点

\[
P=(X,Y)
\]

を加える場合には,その点における接線の傾きを用います.

曲線

\[
Y^2=X^3-n^2X
\]

を \(X\) について微分すると,

\[
2Y\frac{\mathrm{d}Y}{\mathrm{d}X}=3X^2-n^2
\]

なので,接線の傾きは,

\[
m=\frac{3X^2-n^2}{2Y}
\]

です.

したがって,

\[
2P=(X_2,Y_2)
\]

の座標は,

\[
X_2=m^2-2X,
\]

\[
Y_2=m(X-X_2)-Y
\]

によって求められます.

フィボナッチの点を倍加する

フィボナッチ解に対応する有理点

\[
P=\left(\frac{25}{4},\frac{75}{8}\right)
\]

を倍加してみます.

楕円曲線は,

\[
Y^2=X^3-25X
\]

なので,接線の傾きは,

\[
m=\frac{3X^2-25}{2Y}
\]

です.

\(P\) の座標を代入すると,

\[
m=\frac{3(25/4)^2-25}{2(75/8)}=\frac{59}{12}
\]

となります.

したがって,\(2P\) の \(X\) 座標は,

\[
X_2=\left(\frac{59}{12}\right)^2-2\cdot\frac{25}{4}=\frac{1681}{144}
\]

です.

\(Y\) 座標は,

\[
Y_2=\frac{59}{12}\left(\frac{25}{4}-\frac{1681}{144}\right)-\frac{75}{8}=-\frac{62279}{1728}
\]

となります.

よって,

\[
2P=\left(\frac{1681}{144},-\frac{62279}{1728}\right)
\]

です.

楕円曲線の方程式は \(Y\) の符号を反転しても変わらないため,

\[
-2P=\left(\frac{1681}{144},\frac{62279}{1728}\right)
\]

も楕円曲線上の有理点です.

直角三角形の辺を正にするため,以下では \(-2P\) を用います.

新しい有理直角三角形

変換式

\[\begin{align}
a=\frac{X^2-25}{Y}, &&b=\frac{10X}{Y}, &&c=\frac{X^2+25}{Y}
\end{align}\]

に,

\[\begin{align}
X=\frac{1681}{144}, &&Y=\frac{62279}{1728}
\end{align}\]

を代入すると,

\[
a=\frac{1519}{492},
\]

\[
b=\frac{4920}{1519},
\]

\[
c=\frac{3344161}{747348},
\]

が得られます.

これらは,ピタゴラスの関係

\[
a^2+b^2=c^2
\]

を満たし,その面積は,

\[
\frac{ab}{2}=\frac{1}{2}\cdot\frac{1519}{492}\cdot\frac{4920}{1519}=5
\]

です.

したがって,これはフィボナッチの三角形とは異なる,面積が \(5\) である新しい有理直角三角形です.

新しい等差平方数列

有理直角三角形 \((a,b,c)\) から,等差平方数列を,

\[\begin{align}
u=\frac{a-b}{2}, &&v=\frac{a+b}{2}, &&x=\frac{c}{2}
\end{align}\]

によって復元できます.

今回の有理直角三角形では,

\[
u=\frac{1}{2}\left(\frac{1519}{492}-\frac{4920}{1519}\right)=-\frac{113279}{1494696}
\]

\[
v=\frac{1}{2}\left(\frac{1519}{492}+\frac{4920}{1519}\right)=\frac{4728001}{1494696}
\]

\[
x=\frac{1}{2}\cdot\frac{3344161}{747348}=\frac{3344161}{1494696}
\]

となります.

\(u\) については平方のみを考えるので,その符号は問題になりません.

したがって,楕円曲線上の有理点 \(-2P\) から得られる新しい等差平方数列は,

\[\begin{align}
\left(\frac{113279}{1494696}\right)^2, &&\left(\frac{3344161}{1494696}\right)^2, &&\left(\frac{4728001}{1494696}\right)^2
\end{align}\]

です.

実際,

\[
\left(\frac{3344161}{1494696}\right)^2-\left(\frac{113279}{1494696}\right)^2=\left(\frac{4728001}{1494696}\right)^2-\left(\frac{3344161}{1494696}\right)^2=5
\]

が成立します.これは,フィボナッチ解とは異なる新しい解です.

楕円曲線上では,

\[\begin{align}
P, &&2P, &&3P, &&4P, &&\cdots
\end{align}\]

のように加法を繰り返すことができます.

こうして得られた有理点を有理直角三角形へ戻し,さらに等差平方数列へ戻すことで,ジョバンニ問題に対する別の解を生成できます.

おわりに

本記事では,\(5\) を足しても引いても有理平方数になる有理平方数を求めるジョバンニ問題から出発し,フィボナッチ解

\[\begin{align}
\left(\frac{31}{12}\right)^2, &&\left(\frac{41}{12}\right)^2, &&\left(\frac{49}{12}\right)^2
\end{align}\]

を導出しました.

その過程は,\(3\) 項の等差平方数列は有理直角三角形と対応し,その公差は三角形の面積として解釈できることを見ました.フィボナッチ解の場合,その背後にあるのは

\[
9^2+40^2=41^2
\]

というピタゴラス数であり,これを適切に平方数で割ることで,面積が \(5\) である有理直角三角形が得られます.

さらに,面積が \(n\) である有理直角三角形の条件は,楕円曲線

\[
Y^2=X^3-n^2X
\]

上の有理点を求める問題へ置き換えられました.ジョバンニ問題では,

\[
Y^2=X^3-25X
\]

上の有理点が,公差 \(5\) の等差平方数列に対応します.

この対応によって,フィボナッチ解は単独の数値例ではなく,楕円曲線の有理点群に属するひとつの点として捉えられます.そして,楕円曲線上の加法を用いれば,既知の解から別の解を代数的に生成できます.

一見すると初等的な平方数の問題が,有理直角三角形を介して楕円曲線と結びつき,その上の幾何学的な加法が新しい数論的解を生み出します.このように,個別の数値を探す問題の背後に豊かな代数構造が現れることが,ジョバンニ問題の興味深い点です.

参考リンク

付録

中線定理と平行四辺形恒等式

高校数学で習うパップスの中線定理は,三角形 \(ABC\) において,辺 \(BC\) の中点を \(M\) とすると

が成り立つという定理です.

しかし,この数式だけを見ても,その幾何学的な意味はあまり明瞭ではありません.また,中点であることから \(BM=MC\) であり,式中の \(BM\) は \(MC\) に置き換えることもできますが,この対称性が元の式では見えにくくなっています.

そこで,\(\triangle ABM\) を平行移動し,辺 \(BM\) を辺 \(MC\) に重ねます.点 \(A\) の移動先を \(A’\) とすると,

\[
\triangle ABM \equiv\triangle A’MC
\]

であり,\(4\) 点 \(A,M,C,A’\) はこの順に平行四辺形を成します.

このとき,平行移動によって

\[\begin{align}
AB=A’M,&&BM=MC
\end{align}\]

となるため,中線定理は

と書き換えられます.この式を平行四辺形恒等式と呼びます.

このように,中線定理は平行四辺形恒等式として読み替えることで,

平行四辺形の \(4\) 辺の長さの平方和は,\(2\) 本の対角線の長さの平方和に等しい

と,簡明かつ幾何学的に表現できます.つまり,中線定理は三角形だけに固有の定理ではなく,背後にある平行四辺形の対称性を,三角形の形で記述したものと理解できます.

最後に,平行四辺形恒等式をベクトルで記述します.平行四辺形の隣り合う \(2\) 辺を表すベクトルを

\[\begin{align}
\mathbf{a}=\overrightarrow{AM},&& \mathbf{b}=\overrightarrow{MC}
\end{align}\]

と置きます.すると,平行四辺形恒等式は

\[
|\mathbf{a}+\mathbf{b}|^2+|\mathbf{a}-\mathbf{b}|^2=2(|\mathbf{a}|^2+|\mathbf{b}|^2)
\]

と書き換えられます.

この式がベクトルの次元に依らずに成り立つことは,簡単な代数計算によって確かめられます.本編では,この \(1\) 次元版である

\[
(a+b)^2+(a-b)^2=2(a^2+b^2)
\]

を「実数における平行四辺形恒等式」と呼んでいます.

ピタゴラス数と三角関数の媒介表示

三角関数の基本恒等式

\[
\cos^2\vartheta+\sin^2\vartheta=1
\]

を半角の式に変形して,ピタゴラス数と三角関数の媒介表示を導いてみます.

まず,三角関数の倍角公式を基本恒等式に代入すると,

\[
\left(\cos^2(\vartheta/2)-\sin^2(\vartheta/2)\right)^2+\left(2\cos(\vartheta/2)\sin(\vartheta/2)\right)^2=1
\]

を得ます.

さらに,

\[
1=\cos^2(\vartheta/2)+\sin^2(\vartheta/2)
\]

を用いて右辺を書き換えると,

\[
\left(\cos^2(\vartheta/2)-\sin^2(\vartheta/2)\right)^2+\left(2\cos(\vartheta/2)\sin(\vartheta/2)\right)^2=\left(\cos^2(\vartheta/2)+\sin^2(\vartheta/2)\right)^2
\]

という同次式が得られます.

ピタゴラス数

この式は \(\cos(\vartheta/2)\) と \(\sin(\vartheta/2)\) についての同次式なので,両者の値そのものでなく,その比だけによって成り立ちます.そこで,

\[
\cos(\vartheta/2):\sin(\vartheta/2)=p:q
\]

と置きます.同次性により,先の式は

\[
(p^2-q^2)^2+(2pq)^2=(p^2+q^2)^2
\]

と書き換えられます.

これを三平方の定理

\[
a^2+b^2=c^2
\]

と比較すれば,

\[\begin{align}
a=p^2-q^2,&&b=2pq,&&c=p^2+q^2
\end{align}\]

とピタゴラス数の表式が得られます.

三角関数の媒介表示

次に,先の同次式の各項を

\[
\left(\cos^2(\vartheta/2)+\sin^2(\vartheta/2)\right)^2
\]

で割ります.ここで媒介変数を

\[
t=\tan(\vartheta/2)
\]

と置くと,

\[
\left(\frac{1-t^2}{1+t^2}\right)^2+\left(\frac{2t}{1+t^2}\right)^2=1
\]

を得ます.これをもとの基本恒等式と比較すれば,

\[\begin{align}
\cos\vartheta=\frac{1-t^2}{1+t^2},&& \sin\vartheta=\frac{2t}{1+t^2}
\end{align}\]

が得られます.また,両式の辺々を割ることにより,

\[
\tan\vartheta=\frac{2t}{1-t^2}
\]

が得られます.

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